佐藤達生 KDDI株式会社

ミリ波エリアを飛躍的に拡大する無線中継技術―佐藤達生(KDDI株式会社 執行役員 コア技術統括本部・ネットワーク開発本部長)
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation (IX) Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.8)

5Gで利用できる周波数帯としては、低い周波数で大きなエリアをカバーできるSub6と、高い周波数で高速通信を実現できるミリ波の双方が割り当てられている。一般には耳にすることが多くないミリ波通信は、実際にサービスやソリューションの現場でどのよう...

2025/04/23

Posted on 2025/04/23

5Gで利用できる周波数帯としては、低い周波数で大きなエリアをカバーできるSub6と、高い周波数で高速通信を実現できるミリ波の双方が割り当てられている。一般には耳にすることが多くないミリ波通信は、実際にサービスやソリューションの現場でどのように使われているのか。KDDI執行役員 コア技術統括本部・ネットワーク開発本部長の佐藤達生氏に、同社の取り組みの状況と見えてきた成果について尋ねた。(TeleGraphic 編集部)

混雑している特定の場所でミリ波が有効に機能

まず、お客様に安心してご利用いただける場所を広く提供することが私たちの使命です。都市部だけでなく面的な広がりが要求されますし、都市部の中でも電波が届きにくい屋内の対策などを通じて、お客様が快適に使えるエリアを拡大できるように努めています。そうした取り組みの1つとして、2025年4月にはStarlinkを使った衛星直接通信サービス「au Starlink Direct」を開始しました。これまでエリア整備が難しかった山間部やキャンプ場などでも、空が見えていれば通信できるのです。こうした面的な広がりはとても重視していて、これまでも、これからも対応していきます。

通信環境の確保という意味では、混雑している場所も重要な課題です。駅やスタジアムなど、多くの人が同時に通信を利用する場所では、単一の周波数だけでは対応が難しいため、複数の周波数を併用しています。面的な広がりだけでなく、1つの場所における通信帯域の拡大という側面です。お客様が多く集まっている場所でも快適に通信できる対策として、非常に帯域が広いミリ波の周波数帯を活用しています。

ミリ波については、国内で利用できる端末がまだ少ないことや、対応しているエリアが限られていることから、トラフィックを統計的に見ると非常に少ない割合にしかならない現状があります。また携帯電話のインジゲーターに「ミリ波」などと表示もされないので、お客様からすると、ミリ波で通信状況が改善していてもあまり意識されていないということもあります。しかしすでにKDDIでは、駅やスタジアムなどでミリ波のアンテナを備えた基地局を多数設置しています。非常に高速で高品質な環境が提供できていて、実際にお客様にも使っていただいています。具体的には、1Gbpsを超えるようなダウンロードスピードを実現していますし、複数のお客様が使っても高い速度の通信環境を提供できています。そうしたミリ波の使い方は、KDDIとしても継続して提供していきたいと思います。

佐藤達生 KDDI株式会社

届きにくいミリ波の電波を飛ばす新手法

ミリ波は周波数が高いため、光と同じように直進性が強いことは皆さんもご存知でしょう。そのため電波を遮断するものがあると通信できなくなってしまいます。そうした特性があるミリ波ですが、スタジアムとは相性がいいのです。スタジアムというのはすり鉢状になっているので、上部にアンテナを設置すると遮蔽物の影響を受けずに多くのお客様に電波が届きやすいというわけです。面的に広げられるスタジアムに対して、待ち合わせ場所などでは街路樹や看板があったりして、どうしても基地局のアンテナから影になってしまう部分ができてしまいます。そうした影の部分に対しては、電波を届けられるようにし、使えるエリアをもっと安定して広く作る方策が求められます。1つの方法は、基地局を増やすことです。基地局が増えればカバレッジが広がります。ミリ波は直進性が強いので、スポット的にエリアを作ることになりますが、スポットを増やせばカバレッジが広がるというわけです。しかし、基地局を増やすためには、光ファイバーも引かなければならないですし、無線機も設置しなければなりません。コストがかさむことになります。

そこで、ミリ波のエリアを拡大するための新しい方策として、KDDIでは新規開発した中継器を導入しました。今回の中継器は、ダイナミックに電波の送受信の方向を変えられることが特長で、革新的です。中継器の筐体は複数のアンテナ面からなり、どの面の受信電力が強いかを検出して適応的に送受信パネルが決定されます。さらに、複数の中継器で電波をリレーすることも可能です。複数のパスでのリレーにも対応しているので、どこかのパスが切れても他のパスで中継できるメリットもあります。また、今回開発した中継器の消費電力は基地局に比べると大幅に小さく、電気代の節約にもつながります。

KDDIとしては、こうした中継器を自分たちで使うだけでなく、国内外の通信事業者に興味を持ってもらいたいと考えています。ミリ波の高速・大容量な特長を生かしながら、低コストでエリアを拡大する方策として中継器が有効だからです。通信事業者側のメリットが見えてくることでミリ波活用の可能性に関し理解が広まれば、端末メーカーももっとミリ波への対応を進めるでしょう。端末を使うお客様にとっても、安定して高速通信できるエリアが広がれば大きなメリットにつながります。これからも、事業者、端末メーカーの双方に向けて、ミリ波活用を一緒に進めましょうとメッセージを送っていきたいと考えています。

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インダストリアルでの活用の芽

ミリ波は、インダストリアル分野でも実証実験が始まっています。私たちが注目しているのは、防犯カメラなどの映像伝送での活用です。防犯カメラは、自治体や商店街、個人の店舗など、さまざまなものがあります。一方で、メンテナンスされずに放置されているカメラも少なくないのが現状です。どこから電源を取っているのか、どう回線を確保して管理しているのか、わからなくなってしまうのです。そうしたカメラの通信回線として無線を使えば、光ファイバーなどの固定回線を使わずに防犯カメラが設置でき、メンテナンスの負荷を軽減できます。ミリ波ならば大容量の通信が確保でき、カメラのソリューションの需要はあると考えています。

加えて、カメラ側が動くソリューションもあります。例えば、警備員がカメラをつけて巡回して、何かあったときのためにドライブレコーダーのように画像を吸い上げていく用途や、スポーツの審判がカメラをつけてデータ伝送する用途など、ミリ波の可能性は多方面で広がっています。工場の中でも、この動くカメラの一例としてロボットがカメラを搭載して、収集した画像データを使って処理するといった場合には、無線通信が有効です。ミリ波の活用についてKDDIは、一般のお客様に快適な通信環境を提供する用途はもちろん、工場などのインダストリアル分野での用途についても、研究してサービス化につなげるよう取り組みを進めています。(談)

XGMF ODAIBA IX core では、来る4月25日(金)に「ODAIBA IX Core & KDDI ミリ波イベント」をKDDI新宿ビルにて開催し、本記事の技術的詳細を佐藤達生KDDI執行役員ご本人から語っていただく予定です。なお本イベントはXGMF会員限定とさせていただきますと同時にすでに申し込みを締め切りました。ご了承ください。

(TeleGraphic 編集部)

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