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テラヘルツ波用微細デバイスから宇宙通信まで通信の将来を幅広く展望――NTT R&D FORUM 2024
ミリ波の利用や次世代通信システムの6Gの研究開発から、脳波の活用や宇宙の通信まで、幅広い研究開発の成果が勢揃い――。NTTは2024年11月25日から29日まで同社グループの技術を紹介するイベント「NTT R&D FORUM 2024」を武...
2024/12/13
Posted on 2024/12/13
ミリ波の利用や次世代通信システムの6Gの研究開発から、脳波の活用や宇宙の通信まで、幅広い研究開発の成果が勢揃い――。NTTは2024年11月25日から29日まで同社グループの技術を紹介するイベント「NTT R&D FORUM 2024」を武蔵野研究開発センタで開催した。数多くの展示の中から、無線通信の将来を見通すために注目したい展示の概要を写真で紹介していく。
つなぐ」の世界を変える
誘電体イメージ線路マルチセクタアンテナ
28GHz帯のミリ波で用いる屋内用のマルチセクタアンテナを展示した。1つの素子が約30度を受け持ち、12素子で360度をカバーする平面型のマルチセクタアンテナである。360度をカバーできるため部屋の中心部の天井に配置することで、1基で室内をエリア化できる。指向性があるため部屋の四隅などに複数配置しなければならない既存のアンテナよりも、施工がしやすい特徴がある。さらに薄型化したことで景観にも配慮した配置ができるようになった。
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アナログRoFを活用した分散アンテナシステム
6G通信事業者が大容量通信インフラの提供を実現できるようにする分散アンテナシステム。アンテナの機能を集約局と複数の張出局に分散し、その間をIWONの光ファイバーによるアナログRoF(Radio-over-Fiber)で結ぶ。同軸ファイバーではエネルギーロスが大きく無線周波数の信号を長距離伝送できなかったが、アナログRoFにより数kmまで引き伸ばせる。
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張出局は、アンテナとアンプ、光電気変換器だけで構成し、手のひらサイズに小型化して景観を損ねることなく配置できる。Sub6、ミリ波、ミッドバンド、サブテラヘルツなどの複数の周波数帯を組み合わせた分散アンテナシステムのシミュレーションでは、アップリンクで数十Gbps、ダウンリンクで100数十Gbpsの端末のスループットが得られている。
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5G Evolution & 6G通信技術開拓に向けた取組み
2030年の商用化を目指す6Gに向けたNTTドコモの取り組みを展示した。6G推進の価値として、「サステナビリティ」「効率性」「カスタマー体験」「NW for AI」「どこでもつながるネットワーク」を掲げる。6G標準化のスケジュールとしては、2026年から3GPPで検討が始まるRel-21で議論が本格化する見込みだ。
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写真はAIを活用した無線インタフェース実証実験の展示。ドコモ、NTT、ノキア、SKテレコムとの共同実験で、AIによる最適な変調方式の設計を無線インタフェースに適用することで、通信速度を最大18%向上させられることを確認した。
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こちらはデジタルトライアルの展示。6G時代のデジタルツインの構築に向けて、基地局アンテナ、物理空間、移動局のアンテナをデジタル化することで振る舞いをシミュレーションできるようにした。スゥエーデンのエリクソン本社の構内で、ユーザーが歩きながら6G通信をする際のリアルタイムのスループットをリアルタイムにシミュレーションできる。目に見えない電波を見える化する技術として、期待が持たれる。
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海中音響通信による海中無線ネットワーク
電波で通信が難しい海底で音波を使った通信を実現する技術の展示。これまでの音響通信では数十kbpsといった低速の通信しかできなかったが、超音波により1Mbps以上に高速化する技術を開発していることを示した。海中のダイバーとの通信や、陸から海中のデバイスを遠隔制御するニーズに向けたもの。ダイバー向けの音声などによる双方向通信サービスは2027年ごろに、映像などを用いた海中工事や設備点検向けの通信サービスは2030年頃に、それぞれ提供を目指している。
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6Gに向けたサブテラヘルツ帯デバイス技術
6Gに向けた高周波数帯のデバイス技術を展示した。100G~300GHzというサブテラヘルツ波の通信で、基地局間の超高速無線や雲のセンシングなどに用いることが想定されている。サブテラヘルツ波の実用化のために、デバイス技術と伝搬制御技術の開発を進めている。デバイス技術としては、サブテラヘルツ波の通信機能を従来の弁当箱大から米粒以下にまで凝縮した超小型デバイスを内製した。これにより、通信モジュールも数センチ角で手のひらに乗るサイズにまで縮小できた。
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伝搬制御技術としてはRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)を展示。波長に対して小さい単位構造を周期的に並べたメタサーフェスにより、電波の方向制御や集束を可能にする。静的な構造のメタサーフェスの試作を展示し、顕微鏡で拡大することでトランジスタを含む微細構造を確認できた。能動的なRISについては模型を出展、開発を続けて2025年初頭にも実験を行うと説明があった。
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新しい体験を創造する
運動能力転写技術:脳波を活用した運動支援
身体を動かさずに、脳波で運動を判断して活動を支援する技術を展示した。デモでは、帽子型のセンサーを取り付け、脳波を測定。「右手を動かす」「左手を動かす」という運動意図を判断し、バーチャル空間の車椅子を右や左に移動させる。写真ではNTTドコモの中村武宏CSOが器具を装着している。今後、右手、左手の2つの動きから、各指の動きなどに分解能を高めることで、脳波による運動支援の応用範囲を広げ、人間拡張につなげたい考えだ。
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光電融合デバイス(PEC)
光通信を短距離でも使えるようにするためのデバイスの研究開発状況を紹介した。光電融合をNTTグループではPEC(Photonics Electronics Convergence)と呼び、データセンター間を結ぶPEC-1から、データセンターのラックのボード間を結ぶPEC-2、ボード内の半導体パッケージ間を結ぶPEC-3、半導体パッケージ内に用いるPEC-4までのロードマップを掲げる。PEC-1は商用化済み、PEC-2は2025年に商用化を目指していて、それぞれのモジュールを展示した。
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さらに、半導体パッケージ間を結ぶPEC-3では、1.11mm×2.75mmに16個のメンブレンレーザーと導波路を集積した「メンブレン光送信モジュール」の評価版を展示した。2028年の社会実装を目指して開発を続けていく。
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IOWN APN/DCI技術を活用した異国間メタバース体験
IOWNのAPN(All Photonics Network)を利用して、日本と台湾を結び、VR(仮想現実)空間内でリアルタイムにコミュニケーションを行うデモを行った。台湾では中華電信の社員が対応し、日本の参加者と同じメタバース空間を共有した。3000kmの距離を17ミリ秒の遅延で結ぶことで、遅れのないメタバース体験ができることを実証していた。実際には、映像配信とリアルタイムAI翻訳のサーバーは台湾に、画像のレンダリングサーバーは日本に配置するという分散サーバー構成を取りながら、1つのデータセンター内にサーバーが配置されているのと同等のパフォーマンスが得られていた。これはサーバーやデータセンターの配置の自由度をIOWNで格段に高められることを示したことにつながる。
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IOWNを活用したリモートプロダクション
IOWN APNを活用して、動画制作を分散化させられることを示したリモートプロダクションのデモを行った。さいたまスタジアムに設置した6台のカメラ映像(実際には収録済みのカメラ映像をリアルタイムで配信)をIOWNで伝送し、R&Dフォーラム会場の武蔵野研究開発センタ側でカメラのスイッチやテロップのインサートなどの編集を実施した。現在の動画制作では中継現場でプロダクションまで行う必要があるが、IOWNにより中継場所とプロダクションの場所を分離して効率化することが可能になる。
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地球から宇宙へ通信の領域を拡大
宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想の実現
NTT R&Dフォーラムとして、始めての宇宙ビジネスの展示。NTTグループでは、NTT C89(CONSTELLATION 89)プロジェクトと命名して、全天に88ある星座(CONSTELLATION)に続く89番目の星座として宇宙利用の設備の構築を目指す。日本の宇宙産業促進に貢献するものだ。全体像としては、宇宙統合コンピューティング・ネットワークの実現を掲げ、地上や海中のネットワークから、宇宙のさまざまな衛星などを統合的に活用する将来像を描く。
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HAPSによる通有心カバレッジ拡大技術
成層圏を飛ぶHAPS(High Altitude Platform Station)によりモバイルネットワークのカバレッジを拡大する。HAPSの模型を展示したほか、HAPSによる直接通信システムの早期実用化推進、さらなる高度化などの研究開発の状況を説明した。
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光衛星通信技術
NTTとスカパーJSATが共同で立ち上げた企業のSPACE COMPASSの取り組みの1つとして、光データリレーサービスを紹介した。今後、低軌道衛星(LEO、Low Orbit Satellite)を使った観測衛星が多く共用されるようになることで、自然災害からCO2排出量の把握、スマート農業まで様々なデータが収集されるようになる。
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一方で、地上に対して高速移動するLEOは、地上の特定の地点からは10分程度しか連続通信ができない。そのため蓄積した大量のデータを地上に直接伝送することが難しく、他の手段が求められる。光データリレーサービスでは、低軌道衛星から地上3万6000kmの高度にある静止衛星(GEO、Geostationary Orbit Satellite)に10Gbpsといった高速でアップロードし、静止衛星と地上の光および無線のコネクションでダウンロードすることで、データのダウンロードの課題を解決することを提案、展示した。
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新たなワイヤレスエネルギー伝送技術
月面ローバーに電力を伝送するための伝送路として、月の砂を利用する無線電力伝送の研究を出展した。月面を移動するための月面ローバーに電力を提供するために、電線を敷設するのは難易度が高い。そこで月にある砂を誘電体として、砂に電圧をかけることで電力波を生じさせ、ローバーに電力を送る技術を開発した。太陽の光が届かず太陽光発電ができない月の裏側でもローバーを走らせることができる。デモでは、月面を模した砂に近づけるとローバーの車輪が動くことを展示し大きな人だかりができていた。
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