KOTARO NUKAGAでテクノロジーが描く「幸せな未来」を見つめ直す
研究開発のネタをアート/デザインの現場から探る(No.7)
ギャラリー、画廊といわれる場所に入ったこと、ありますか?一般的にギャラリーは、芸術作品を展示し、かつ販売する場であるため、馴染みがない方が多数かと思います。今回訪れた「KOTARO NUKAGA」。国内外の先鋭的なアーティストと共に独自性の...
2024/11/29
Posted on 2024/11/29
KOTARO NUKAGA
ギャラリー、画廊といわれる場所に入ったこと、ありますか?一般的にギャラリーは、芸術作品を展示し、かつ販売する場であるため、馴染みがない方が多数かと思います。かくいう私も、学生の頃は「お金なぞ持っていない私がこの場に入っていいのか」と、ギャラリーの敷居をまたぐことに極度の緊張を持っていました。が、そんな風に気張らなくて大丈夫。購入目的でなくとも、展示だけ気軽に見に行っていいのです。ちなみにギャラリーの展示は基本的に無料。ふらっと入って、ふらっと出てくる。そんな散歩のような楽しみ方も許されるのが、ギャラリーです。
東京にはギャラリーが多く集まるエリアがいくつかあり、銀座界隈は昔から有名です。近年では品川区・天王洲にも、寺田倉庫株式会社が運営する施設「TERRADA ART COMPLEX」を中心に、ギャラリーが集いつつあります。
この TERRADA ART COMPLEX の一角にあるのが、今回訪れた「KOTARO NUKAGA」。国内外の先鋭的なアーティストと共に独自性の高いプログラムを展開しているギャラリーです。
Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? ー幸せな明日を信じてもよい?ー
この KOTARO NUKAGA で、2024年11月2日(土)から2025年1月25日(土)まで開催されている展覧会が、「Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? ー幸せな明日を信じてもよい?ー」。本展は、アーティストのスプツニ子!(Sputniko!)氏が手がける、AIを駆使した3シリーズの作品群から成る個展です。スプツニ子!氏は、本展では、“かつてテクノロジーとともに描いた「幸せな未来」の現在地を見つめ直”すと述べています(本展アーティストステイトメントより)。“効率性や利便性は、本当に私たちの幸せに繋がっているのか?”“テクノロジーは、私たちを解放するのか、それとも新たな束縛となるのか?”“私たちは、まだ未来を信じることができるのか?”という問いが、アーティストより投げかけられている展覧会なのです。
「四つ葉のクローバー」を最新技術で効率的に探す行為は「幸せ」なのか
例として、展示された3シリーズのうち、《Drone in Search for a Four-Leaf Clover》を挙げましょう。Four-Leaf Clover、四つ葉のクローバーは、いわずと知れた「幸せの象徴」。探し出すのが難しく、幼少期、春の野原で四つ葉のクローバーを発見できれば、周囲から羨望の目で見られたものです。本作品では、ゆっくり飛行するドローンによって撮影された、群生するクローバーを、AIがその場で解析し、四つ葉のクローバーを見つけ出していく映像が流れていました。AIはクローバーを認知した後、それが四つ葉であれば、赤枠を表示して即座に教えてくれます。「見つけたら幸せになれる」と、夢中になって楽しく探した四つ葉のクローバーが、最新技術によっていともたやすく見つかるという虚しさを目の前にし、「こういうことを技術の進歩に求めていたっけ?」と考えさせられます。
偽りの「吉兆」に「幸せ」はあるのか
本展名と同じ名をもつ《Can I Believe in a Fortunate Tomorrow?》は、見たら吉兆と言われる「彩雲」(太陽近くの雲が虹のように七色を帯びて見える現象)を、AI によってシミュレートした映像作品です。大変美しいのですが、作り物であり、いわばフェイク映像ともいえる存在。「これは吉兆か?」と自分自身に問い、私は唸ってしまいました。なぜ自分は違和感を覚えるのかを沈思する中で、「もしかして私は『本物』や『希少性』にとらわれ過ぎているのでは」と、さらに悩みを深くするのでした。
アートから示される未来の可能性
11月9日(土)に開催された、本展に関するトークイベント「社会を変えるアートとテクノロジーの交差点」にて、スプツニ子!氏は、自身が2010年に考案した、男性が女性の生理を体験するためのデバイスおよびその映像作品について触れました。当時、本作品は過激だと受け取られたようです。しかし現在は、“女性の生理を支援することがもっと社会的にアクセプタブルになった”と、スプツニ子!氏。「Femtech」(女性特有の健康課題を技術によって解決する製品・サービスを指す)という単語が近年出てきたことも、その兆候の1つといえるでしょう。
このように、アート作品から提示された問いは、現時点では過激に見えたとしても、いずれ直面する未来の「何か」かもしれません。
さて、「幸せな未来」を見直しに、天王洲にふらっと立ち寄ってはいかがでしょうか?
- イベント名称
- Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? ー幸せな明日を信じてもよい?ー
- 会期
- 2024年11月2日(土)- 2025年1月25日(土)
- 会場
- KOTARO NUKAGA (天王洲)
〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 1F - 開廊時間
- 11:00 – 18:00 (火-土)
※日月祝休廊
※年末年始休廊: 2024年12月27日(金) – 2025年1月6日(月)
八十雅世(やそ・まさよ)
情報技術開発株式会社 経営企画部・マネージャー
早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。2024年4月より「シュレディンガーの水曜日」編集長を兼務。