5G/6Gにおけるミリ波の正しい使い方 〜大岡山5G/6G実証フィールドの例を通して〜(阪口 啓 東京科学大・副学長)
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation(IX)Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.4)
市販の 5G 端末を用いてスピードテストなどを行っても1Gbit/s 以上の超高速通信 や 1ms の超低遅延通信は達成されない。これはクラウド (サーバ)と上位ネットワークがボトルネックになっているためだ。そこで、どのようなサー...
2024/11/18
Posted on 2024/11/18
市販の 5G 端末を用いてスピードテストなどを行っても1Gbit/s 以上の超高速通信 や 1ms の超低遅延通信は達成されない。これはクラウド (サーバ)と上位ネットワークがボトルネックになっているためだ。そこで、どのようなサービスが5G の特徴(超高速低遅延 )を活かすことができるかを考えてみると V2X(Vehicle-to-Everything)で実現される「協調認知」が浮上してくる。5G の特徴であるミリ波帯を用い、クルマの車間を直接接続することで超高速低遅延通信が可能になる。例えば、前方にいるクルマのカメラや ライダ(LiDAR : Light Detection And Ranging)などの センサデータを超高速低遅延に自分が運転するクルマに伝送し,自車のセ ンサデータと合成することで前方車を透視することが可能になり対向車を認知することができる。これはクルマの運転の概念すら書き換えてしまう可能性があるが、このように5Gの高速低遅延性は,イン ターネットを介さないエッジ処理でこそその力を発揮できる、と考えられる。
さらに6Gに向けては、現在様々な研究開発がいろいろなところで行われている。LEO(Low Earth Orbit)や HAPS(High Altitude Platform System)を活用した非地上系ネットワーク、あるいはミリ波帯より更に高い周波数であるテラヘルツ波帯などの技術が注目されているが,私たちの6G研究は、3G・4G ・5G もパッケージで考えているところに特徴があり、それを「超スマート社会サービスプラッ トホーム」と表現している。サイバー空間とフィジカル空間 を 5G /6Gで融合させることでスマート農業やスマートモビリティなどの新たな社会やビジネス を創出することができるだろう。
5G/6G 時代の超スマート社会では、サイバー空間とフィジカル空間がサイバーフィジカルシステム(CPS)とし て直結する。スマートモビリティの場合、サ イバー空間にはビッグデータや人工知能(AI)が存在するのに対し,フィジカル空間にはカメラやライダなどのセンサ、ダイナミックマップなどのデータベース、 判断を行うエッジコンピューティング(Multi-access Edge Computing, MEC)、そして自動車などのアクチュエータが存在するということになる。5G/6G はこれらを接続する。センサとデータベースは必ず高精細化するため、超高速低遅延通信は必須だ。一方 MEC とアクチュエータ間には慣性があるため高速性よりも超高信頼低遅延性が重要になる。このようにフィジカル空間のデバイスは多数存在するため、サイバー空間 とフィジカル空間は同時多数接続が必要になる。つまり5G/6G の3つの特徴は CPS の5つの構成要素を接続することで実現されることがわかる。
現在、東京科学大・大岡山キャンパスで「スーパースマート タウン大岡山事業」に取り組んでいる。これは 5G/6G 及びMEC を活用して、成熟した街である大岡山をスマート化する事業だ。現在はミリ波を含む 5G のエリア構築及び MEC などのネットワークの構築が一通り完了した段階 で、MEC を活用した AR ナビゲーションや物体認識などのアプリケーションが動作している。これらの最先端の技術を活用して、東京科学大のみならず、大岡山全体を活性化させていきたいと考えているが、この研究開発からいろいろなことが判ってきた。11月21日のイベントでその一端をご紹介したいと思う。
(談)
東京科学大・副学長、リサーチディベロプメント機構長、超スマート社会卓越教育院長、工学院・電気電子系(教授)
阪口啓(さかぐち・けい)氏
2008年東京工業大学大学院 理工学研究科 准教授。その後、大阪大学大学院 工学研究科 准教授、フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ通信技術研究所 研究主幹等を経て、2017年東京工業大学工学院 教授に就任。2024年から同大学・副学長。