種谷 元隆 (たねや・もとたか)

5G/ミリ波の負のループを逆回転させてIXを推進する(種谷 元隆・シャープ株式会社・専務執行役員 CTO )
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation(IX)Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.3)

IXを推進させるための通信の利活用に、何が不足していて、何を変えることで状況を負のループから正のループへと逆回転させられるのか。シャープ 専務執行役員 CTO兼 ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏に、その目のつけどころを尋ねた。...

2024/11/13

Posted on 2024/11/13

シャープは、5Gなどの通信関係で多くの技術開発を行っている。スマートフォンはもとより、産業のトランスフォーメーション(IX)にも目を向けた大掛かりな取り組みだ。IXを推進させるための通信の利活用に、何が不足していて、何を変えることで状況を負のループから正のループへと逆回転させられるのか。シャープ 専務執行役員 CTO 兼 ネクストイノベーショングループ長の種谷元隆氏に、その目のつけどころを尋ねた。(TeleGraphic 編集部)

――シャープ中での5G、Beyond 5Gなど通信関係の技術開発やビジネスの位置づけを教えて下さい。

種谷:シャープの組織体制を簡単に説明します。まずビジネスグループが4つあります。「スマートライフ&エナジー」「スマートオフィス」「ユニバーサルネットワーク」「ディスプレイデバイス」です。このほかに「ネクストイノベーショングループ」と「AIディベロップメントグループ」があり、ネクストイノベーショングループの中に研究開発本部があるという体制です。研究開発本部でミリ波RF(無線高周波)モジュールや次世代無線基地局、V2X(Vehicle-to-Everything)技術の開発、通信および映像技術の標準化技術への対応を進めています。

――5Gなどの通信関係のビジネスはどのビジネスグループが担当しているのですか。

種谷:ユニバーサルネットワークの配下の通信事業本部で、スマートフォンやローカル5Gの関連製品を提供しています。ただし、それだけではありません。スマートライフ&エナジービジネスグループというのは、主に冷蔵庫やソーラー発電などの白物関連を扱うのですが、このビジネスグループでBeyond 5GのIoT通信用のSoC(System on Chip)を開発しているのです。このビジネスグループの下にはシャープセミコンダクターイノベーション(SSIC)というICの設計会社があります。SSICは、空気清浄機などに用いる技術のプラズマクラスターイオンを発生するデバイスを作っています。こうしたデバイスを開発製造する技術があることから、Beyond 5G関連のデバイスが白物関連のビジネスグループに含まれています。

このBeyond 5G用のIoT通信のSoCは、総務省の情報通信研究機構(NICT)のファンドをいただいて、スタートしました。現在4年目に入って研究開発を続けています。

ソフトウエアで機能を実装しBeyond 5GのIX適用を可能に

――通信用のSoCというと、海外のチップベンダーが力を持っている分野です。

種谷:海外のチップベンダーに対抗できるデバイスを作るのは難しいだろう、と言われていたのですが、シャープのBeyond 5G IoT通信用SoCの特徴は、機能をソフトウエアで改編できることです。例えば、3GPPなどの標準化機関が定めた標準には、必須機能のほかに数多くのオプション機能があります。オプション機能に使いたいものがあったとしても、実際にSoCに実装されなかった機能は実現できないわけです。一方でシャープのSoCならば、ソフトウエアで機能を実装できますから、求めるオプション機能を実現できるのです。

――産業分野でのBeyond 5Gの利活用に、どのように貢献するとお考えですか。

種谷:インダストリートランスフォーメーション(IX)の世界を見たときに、5Gなどの利用がデッドロックに乗り上げている要因の1つに、こうしたSoCへの機能実装の壁があります。

IXの世界の製品はスマートフォン等に比べたら必要絶対量が少なくなります。一方でソフトウエアで機能を実装できるSoCならばビジネスが成立し、IXを推進することになると考えています。それこそ産業用に5GやBeyond 5Gを適用する分野に広がっていくということで、NTTドコモの中村さん(XGMF 6G推進プロジェクト プロジェクトリーダ 中村 武宏氏)とも接点ができて、XGMF主催のイベントであるODAIBA IX Coreでお話する機会を得ることにつながりました。

SoCの開発は、東京大学の中尾彰宏教授と一緒に進めています。中尾先生は通信の民主化というお話をしていらっしゃって、特定の企業に通信の根幹を握られている状況から、ユーザー企業が自由度を持てる状況への変化が求められると指摘しています。こうした視点もIXの推進に関係すると考えています。

種谷 元隆 (たねや・もとたか)

ミリ波利活用のループを逆回しにして活性化する必要性

――今回、XGMFのODAIBA IX Coreでは、どんな点を訴求したいとお考えですか。

種谷:まず大きな枠組みとして、ミリ波やローカル5Gなどの利活用とその先のBeyond 5Gの実現があります。ミリ波やローカル5Gの利活用と、Beyond 5Gの実現に向けた概念の拡大がありつつ、新しいアプリケーションの開拓を進めなければなりません。そのためにはアプリケーションを実装するための技術開発が必要になります。そうした技術開発が進むことで、ミリ波やローカル5Gがさらに促進されるというループが回ると考えています。

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ところが、今は残念ながらこのループが逆方向に回っています。アプリケーションはあってもボリュームが少ないために実現するための製品や技術のコストが高くなってしまったり、逆にソリューションが存在しないことで、開発した技術が実装されずに利活用が進まなかったりしています。負のループになってしまっているのです。

――そのループの逆転のきっかけになるのは?

種谷:シャープとしては、ベンダーとして少ない数でも実装できるようなソフトウエアデファインドのプラットフォームを作りましょうという取り組みを進めています。大手ベンダーが目を付けないような小さなアプリケーションやソリューションでも、このSoCがあれば拾い上げられるはずです。

アプリケーションとしては、非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)や衛星通信、V2Xなどの世界で、ミリ波に近い技術が活用されるポイントを活かしていくことを考えています。可搬型のローカル5Gシステムなども含めて、このループを逆転させる機会にしたいと思いますし、IXの世界でも新しい世界観が出てくると考えています。
(取材・構成 TeleGraphic 編集部)

なお、種谷氏は、来る2024年11月21日(木曜)に開催されるXGMF・ODAIBA IX Core主催のワークショップ「工場5Gの現場と6Gへの布石としてのミリ波の実装」にてIX (Industrial Transformation)の世界における5G普及のためのSoC(System on Chip)の話題を中心にシャープの5G/6Gビジネスをご紹介いただく予定です(オンライン)。こちらのページからお申し込みください。(TeleGraphic 編集部)

種谷 元隆 (たねや・もとたか)
シャープ株式会社・専務執行役員 CTO 兼 Next Innovationグループ、シャープIPインフィニティ株式会社・代表取締役会長
種谷 元隆 (たねや・もとたか)氏

京都大学大学院(修士課程)修了、 1983年シャープ入社。基盤技術やデバイス要素技術の研究開発に携わった後、電子デバイス事業本部 化合物半導体システム事業部長、執行役員研究開発本部長、常務執行役員CTO兼 R&D担当を経て、2024年から現職。東京大学ナノ量子情報エレクトロ二クス研究機構客員教授も務める。

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