より高い周波数の光からミリ波へ、ミリ波モジュールを開発し実証に取り組む(坂野達也・フジクラ 取締役CTO)
XGMF・ODAIBA IX Core Report
今回は「産業技術と最先端通信技術の現場からの報告」をテーマに開催。5つのセッションの中から、本稿ではフジクラ 取締役CTOの坂野達也(ばんの たつや)の講演、「フジクラの技術開発戦略とミリ波技術」を紹介する...
2024/10/04
Posted on 2024/10/04
XGMF・ミリ波普及推進ワークショップは、名称をXGMF・ODAIBA IX Coreにバージョンアップし、新たな活動をスタートした。Vol.8となる今回は「産業技術と最先端通信技術の現場からの報告」をテーマに開催。5つのセッションの中から、本稿ではフジクラ 取締役CTOの坂野達也(ばんの たつや)の講演、「フジクラの技術開発戦略とミリ波技術」を紹介する(TeleGraphic 編集部)
フジクラはB to Bの会社で、創業は1885年と長い歴史を持っています。電線・ケーブルの会社として成長してきたフジクラですが、1970年代には事業多角化で周辺部品、工事、自動車用ワイヤハーネスへ、1980年代には光ファイバ、さらにフレキシブルプリント配線板(FPC)へと事業を広げてきました。また高温超電導の事業では核融合への応用で出口が見え始めてきたところです。今日の話題の中心になるミリ波は、情報通信事業の柱になった光ファイバ事業から派生したものです。
フジクラはテクノロジープラットフォームとして集中すべき分野を3つ定めています。1つ目が次世代光通信、2つ目が次世代エネルギー、3つ目がミリ波応用です。これらは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)領域で、社会課題の解決のために重要だと考えています。
28GHzと60GHzのモジュールを開発中、IOWNで実証も
その中で、ミリ波応用について説明していきます。ミリ波については、多くの企業が低い周波数からアプローチしていると思います。一方でフジクラは高い周波数の光からのアプローチをしています。研究開発を地道に進めてきた中で、2019年にIBMの技術を導入することで、RFIC(無線周波数集積回路)が製造できるようになりました。光のサブシステムのグループを統合して、モジュール製造まで持っていき、お客様に使っていただける形態に近づけてきたという歴史です。
現在開発中の商材は2つです。1つは、28GHzのミリ波ICとアンテナを組み合わせたモジュールで、これは5G通信用に開発しています。もう1つは60GHzの通信モジュールで、アンテナモジュールに信号処理プロセッサーを組み合わせたものです。
28GHzのモジュールは、「フェーズド・アレイ・アンテナ・モジュール」と呼んでいます。特長は4つあります。1つは、高精度なビーム制御により、デッドスポットがない高品質な通信環境が実現できること、2つ目がサイズが小さいこと、3つ目が設置状況に応じて柔軟な設定ができること、4つ目が水平と垂直の偏波の両偏波同時送受信ができることです。
60GHzのモジュールは、ライセンスが不要なアンライセンスバンドを使い、高速で広帯域なプライベート通信ができる通信モジュールです。広いカバレッジで長距離大容量伝送を実現し、かつ、広帯域で同時多接続も可能です。用途としては産業用を想定しています。
フジクラのミリ波モジュールは、NTT東日本の「IOWN Lab」における低遅延・大容量伝送の共同実証実験で用いられました。NTTコムウェアのビルにあるデータセンターラックを自動巡回ロボットが撮影し、その映像を伝送してリアルタイム監視する実証実験です。NTTコムウェアのビルでは60GHzのミリ波で高速動画伝送を行い、遠隔地への伝送はIOWNのオールフォトニクス・ネットワーク(APN)により高解像度のまま、低遅延で接続しました。カメラと組み合わせたソリューションとして一定の成果が得られたと考えています。光ファイバやケーブルメーカーのフジクラと、NTTなど通信キャリア、機器メーカー、工事業者などとタイアップして今の姿ができました。
このようにフジクラは、ミリ波に期待しています。一方で、各社が個々のソリューションを提供するだけでは、なかなかうまくいかない部分もあるでしょう。IOWNの共同実証実験が1つの例ですが、多くの皆さんとコラボレーションして光ファイバのように大きくて広い技術領域にまでミリ波を育てていきたいと考えています。
坂野 達也(ばんの・たつや)
株式会社フジクラ取締役 CTO
1987年4月、藤倉電線株式会社(現株式会社フジクラ)入社。光ファイバ・ケーブルシステム事業部光製造技術部部長、光事業部門光事業部光ファイバ製造技術部部長、光ファイバ事業部副事業部長、執行役員・光ファイバ事業部事業部長などを経て、2022年6月に取締役CTOおよび新事業創生・研究開発部門統轄に就任(現任)