仲川彰一氏

「できるわけがない」を超えろ(仲川 彰一・京セラ)
ODAIBA IX Core/Industrial Transformation(IX)Leaders
産業技術を変革するリーダーたち(No.1)

京セラは情報通信、自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアの4分野を中心に、材料開発からエンドユーザ向けサービスまでのレンジを垂直統合的に事業展開している。同社の研究開発戦略を仲川彰一氏に、そして5Gビジネスの状況を福島勝氏に聞いた。...

2024/09/02

Posted on 2024/09/02

京セラは、現在、情報通信、自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアの4分野を中心に、それぞれ材料開発からエンドユーザ向けサービスまでのレンジを垂直統合的に事業展開している。5G分野でもアンテナやRF部品からサービスまでを自社で包括的に提供できる強みがある。また売上の7割が海外向けという文字通りのグローバル企業でもある。同社の今後の研究開発戦略を、執行役員研究開発本部長・仲川彰一氏に、そして5Gビジネスの状況をKWIC (Wireless Innovation Center)統括部長・福島勝氏に聞いた。

京セラにおける技術開発思想/できそうもないことをやれ

仲川 会社の事業を進める上での思想でもあるのですけれども、京セラには「全従業員の物心両面の幸せを追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」という経営理念があります。その経営理念を実現する研究開発を実行する、というのが一つの考え方になっています。もう一つは(これは創業者の稲盛の考えですが)「次にやるべきことは、私たちには決してできないと人に言われたこと」というのがありまして、その精神をモットーとして研究開発をやっています。もともとのスタートがベンチャーなので、「明日をつくっていかないと生き残れない」ということから、M&Aを含めつつ、チャレンジ、チャレンジで広がってきた歴史があります。特にM&Aについては「(我々の)技術の目利き力」に対して一定の評価をいただいているかな、と自負しています。

エンジニア/リサーチャの育成術としてのアメーバ経営

仲川 エンジニア/リサーチャの明確な育成の仕組みについてはまだそれを整備中というのが正直なところですが、我々の世代の育成は「いかに経験を多く積ませるか」が中心でした。もともとそんなにリソースを抱えていたわけではないので、責任を持っていろんなことをやらされるわけです。従って、自分で立ち上げた新しいものは自分で事業化していくことが求められます。何人かを巻き込んで事業を立ち上げ、ある程度目途がついたらまた帰ってくるとか、人によってはそっちでずっとやる、という具合に組織と人が効果的に流動化している時代が長かったと思います。

仲川彰一氏

結局、研究開発をやっていく中でも、事業化した経験やフィードバックが極めて重要で、その経験の前後で考え方や物事の見方がものの見事に変わります。そうやって成長していくというのが僕ら世代の育成術です。プロデューサーぽいことを任せてしまう、という感じでしょうか。

私自身は自分のキャリアを材料系からスタートさせているのですが、固体酸化物形の燃料電池の開発および事業化を任され、事業部に行って立ち上げて、製造を見てというのを経験してきました。この経験は会社の中での“幸せ感”につながると同時に現場の人との人間関係を濃密なものにしてくれる、ということを実感します。これがいわゆる「アメーバ経営」です。アメーバという小さな組織が独立採算できちんと利益を追求します。

ただ、いわゆる「大企業」になってからはやはり分業が進んだのは事実ですね。研究開発も、研究開発は設計まで、その先は事業開発部門や事業部に移管していくというような形にどんどん変わっていって、以前に比べ人が動かなくなった気がします。ただ、大企業になってから入社してくる人たちはみんな優秀ですね。私たちの若い頃に比べ、専門性が非常に高い若者が増えました。特にデジタルテクノロジーを駆使する能力/リテラシーは私たち世代とは雲泥の差です。

事業体験にしても向き/不向きがあるので、特に高いレベルの研究能力がある人、研究開発に従事したい人には、積極的に(学会での論文発表などを含めた)他流試合を勧めています。共同研究も盛んです。東大とは社会連携講座、九大とも包括連携を組んでやって、そこに研究者も出向いて、先生たち、学生さんと一緒に研究開発する。その中で、自分のレベルもわかるし、また学びも多くなり、会社の外に人脈もできるという具合に広がっていく、そういう取り組みを積極的にやっています。

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とは、大きいところでは2つ連携研究しています。一つは光関連、そしてもう一つはプロセス・インフォマティクスですね、セラミックスのPI(研究代表者)を弊社が担当しています。そのPIも、NEDOを説得してプロジェクトを動かしたのですが、村田製作所さんとかTDKさんとかあるいは太陽誘電さん、みんな基本的に我々の競合企業ですが、その人たちと一緒になって、そういうプロセス・インフォマティクスの技術をつくろうというのを産総研やJFCCなども加わって実施しています。ここはいわゆる協調領域ですね。その中で一緒に作ったものは共有です。ちゃんとパテントを取るわけです。

仲川彰一氏・福島勝氏

プロセス・インフォマティクスについては、セラミックスでいくと、日本の世界シェアは40%くらいあります、4兆円に向かって伸びている事業なので、まだまだ日本が強い。その強いセラミックスを維持しないといけないというわけですが、最終的には「ものづくりの力」が決め手になるはずです。設計や設計評価が優れていても、そのとおりにモノが作れなかったら意味がないですからね。その強みにはこだわりを持つべきです。デジタル化は知財が流出しやすくなるという課題もあるんですけど、それはそれでやはり強化しなければならない。日本のため、日本のセラミックスのためという使命感で研究開発しています。それが私たちのモチベーションの源泉です。

日本のパッケージング能力で他国の価値を引き出す国際分業

仲川 ものづくりの強みにこだわりつつも、国際分業がこれからはより一層進むようになるだろう、と思います。その時に、どういうスタンスでその分業に関わるかが重要になります。(日本が)どこにポジショニングするの?ということですね。いわば価値のサプライチェーンにおけるどこに陣取れば日本の強みが活かせるのかを、世界の視点から日本を見たときの考え方でやらないといけない。

デジタルテクノロジーが進んでいくと、設計はあそこ、素材関係はそこ、それを使って最終的なものづくりはここ、という考え方が重要になる。世界各国は割と自国主義にどんどんなっているところもあったりするので、そこも見据えつつ、バランスはとらないといけないのですが、これに加えて現代は、いうまでもないことですが、ハードだけ作っていてもだめですよね。ハードとソフトと、あとアルゴリズムがセットになって一つの価値を生む世界になってきているので、そのときに、日本だけで3つセットでできるかというと、なかなかそうもいかないことはご理解いただけるはずです。

そうすると、じゃ、どこかと組むの?という話になってくる。そしてその時に、日本のこれがないと、組んだ相手の価値も出ないというような世界がつくれれば良いわけです。我々の事業のスタンスからいくと、将来的な半導体の進化、生成AI用の半導体であるとか、量子コンピュータなどもそうですけど、そういうものをちゃんと動かすために、必要なパッケージであったり基板であったり、素材も含めてこのパッケージのこの設計技術があって、こういう高精細なものができているがゆえに、この半導体は高性能で動きます、最大パフォーマンスを出せますよと主張できる。そこに、アルゴリズムを考えるのは米国が圧倒的に強いので、そのアルゴリズム、ソフトウェアが乗っかって動きます、ということですね。日本にはパッケージングで勝負できる能力があると思います。

仲川彰一氏

それと「ちゃんと動かす」というのがキーワードですね。それぞれの部材は優れているはずなのに最大パフォーマンスがなかなか出ていないという時に、材料的な制約、ものづくりの制約、精度の制約のようなものを全部パッケージングで面倒見てあげる。そうすると「ちゃんと動く」わけです。パッケージングは一種の接続実装技術ですから、ここは日本が得意だと思いますよ。そのような形で価値のネットワークと作っていくときにこれから有望なパートナーになりうるのはインドも含めたASEAN諸国でしょうね。

KWICのミッション

福島 我々は京セラの中で5Gの通信インフラ機器開発という事業を担っていくという組織でして、デジタル社会、Society 5.0の実現に不可欠な5G通信の社会浸透に貢献していきたいと考えています。つながるだけでいいわけではなくて、今までどおりのアプリが動くのがいいわけでもない、新しいステージ、ということになるかと思います。この時、デバイスをダイレクトにつくるのはなくて、将来、出てくるだろうというデバイスに必要な部品あるいは材料を開発していく、ということも当然視野に入れています。特に、電池関連、およびアンテナ関連がより一層小型化していくはずなので、そのための材料開発が急務になるかと想定しています。

福島勝氏

特にミリ波の場合は、キャリアさんから見るとどうやってイニシャルコストを回収できるのかが課題だと我々も認識しているので、その辺りを意識しながらを我々としては開発を進めていきたいと考えています。

研究室レベルでは当然6Gに向けた開発が始まっていますが、5Gの成功なくして6Gはありえないです。振り返ってみれば3Gの周波数2GHzにしても、あるいはそのあとの4Gの3.9 GHzにしても屋内浸透が悪くて、とても苦労した記憶がありますが、それらは全て技術的に解消されました。現状の5Gもまだまだそれに近い状況ですから、もう少し期が熟するのを待てば、さほど心配なく普及するはずです。ミリ波は高性能だけれど飛びにくい、という認識をきちんと共有した上でどうネットワークをつくっていくんだ?とかいう議論になっていけば、比較的普及は早いはずですし、そこに我々京セラも貢献できるはず、と考えています。

仲川彰一 執行役員研究開発本部長
仲川彰一 執行役員研究開発本部長

1988年京セラ(株)入社。セラミック関連の開発に従事し、2011年から燃料電池の開発に取り組み、事業化に携わる。2016年に総合研究所、2019年に先進マテリアルデバイス研究所、さらに2021年4月より研究開発本部を担当。

福島勝 KWIC(Wireless Innovation Center)統括部長
福島勝 KWIC(Wireless Innovation Center)統括部長

1991年京セラ入社。通信機器の商品開発や無線通信技術関連の研究開発に従事。 2021年より現職。

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