現場を重視しつつ「通信」「モビリティ」「環境」「ウェルネス」の分野で社会貢献を目指す–魚住智志(村田製作所)
—5GMFミリ波普及推進ワークショップ/日本の産業技術最前線レポート
第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)は、2023年12月にミリ波普及推進ワークショップ「日本の産業技術最前線」の第1回を開催した。幅広く通信業界以外の方とも交流する場を持つことが狙いで、第1回は独自のエレクトロニクス技術で民生向け、医...
2024/01/15
Posted on 2024/01/15
第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)は、2023年12月にミリ波普及推進ワークショップ「日本の産業技術最前線」の第1回を開催した。幅広く通信業界以外の方とも交流する場を持つことが狙いで、第1回は独自のエレクトロニクス技術で民生向け、医療、FA、インフラなどのあらゆる分野でその価値を発揮する村田製作所が登壇。ミリ波事業推進部 部長の魚住智志氏と、プリンシパルリサーチャーの上田英樹氏が講演した。レポートの前編では、魚住氏による「村田製作所が目指す文化の発展に貢献するイノベーション」の内容を報告する。
「通信」「モビリティ」「環境」「ウェルネス」の分野で社会貢献を目指す
村田製作所は、積層セラミックコンデンサ、インダクタ、SAWフィルタなどの電子機器に用いるデバイスを製造している。またICをはじめとした複合化部品モジュール、センサ、リチウムイオン二次電池の供給も行っている。そうした中で同社は、「環境変化が激化している中で、主体的に価値創造をしていくためには、お客様への価値の提供だけでなく、社会課題に対するイノベーションに価値創造の範囲を広げていくことが重要だと考えています」(魚住氏)。
それでは2030年に向けて、村田製作所はどのように価値創造の範囲を広げていくのか。「AIがフィジカル空間とサイバー空間を結んでいく時代になるとき、村田製作所は『通信』『モビリティ』『環境』『ウェルネス』の4つの事業機会を想定しています」(魚住氏)。
『通信』では、5Gの進展の中での商品やソリューションを提供し、同時に5Gから6Gへの変化への対応を見据える。「6Gが対象とする周波数帯では5Gよりも到達距離が短くなるので、通信のエリアが小さくなり大きな構造変化や技術変化が起こります。そのために村田製作所では技術革新を行って価値の提供を続けていきます」(魚住氏)。『モビリティ』では、自動車だけではなくて、動くもの全般をターゲットに据える。『環境』であれば環境保全や持続可能な社会というのがキーワードになり、『ウェルネス』では人の安全・安心であるとか健康といった領域に新たにチャレンジしていくとの説明だ。社会課題への貢献を事業機会と捉えて、技術革新に取り組む考えである。
その中でも、通信分野ではどのような変化が起こっているのだろうか。魚住氏は、「昔は、情報を取ったりサービスを獲得したりするには多大な苦労が必要でした。ところが最近はコンシューマー機器や産業機器、社会基盤までインターネットに接続されて、瞬時につながることができるようになっています。コネクティブになることでどんどん世界が広がり、これは産業に取って大きなチャンスです」と語る。グローバルな製品提供のチャンスが広がり、産業分野ではIoTなどで生産性向上や効率化が実現されるからだ。
さらに、「これまでのコミュニケーションの範囲は、スマートフォンを中心として人と人が中心でした。これがモノへと拡大し、さらにカバレッジエリアも空や宇宙まで広がります。その上で、デジタル技術の進化によってサイバー空間とフィジカル空間が結ばれていくことにより、より生活を豊かにできるようになります。技術の進化が社会課題の解決につながるのです」(魚住氏)と説明する。
あらゆるモノをデータに変換してつなげる「通信」と「センサー」
次いで魚住氏は、ミリ波による通信の価値創造について語った。「一般にミリ波は周波数が高い分だけ通信の距離が届かない、屋外から屋内の透過性が低いといった課題がチャレンジだと考えられます。もちろんそれは重要ですが、村田製作所では大容量データの伝送や高速の応答性などが技術革新のチャレンジの中核になると考えています」(魚住氏)。
ミリ波やさらに高い周波数を使う6Gが普及するようになると、デバイス、ハードウェアの機能向上が求められる。この分野は村田製作所が得意とするところだ。さらに「ソフトウェアやソリューションの提供が求められるのが6Gの世界でしょう。その中で、価値として求められるのは何かというと、あらゆるモノをデータに変換してつなげることだと考えます」と魚住氏は語る。
そうした時代が到来すると、デジタル化のキーデバイスとしてセンサの注目が高まる。あらゆる計測できるデータはセンサによってデジタル化され、例えばAIで解析し、分析、最適化が実現されることで、センサで取得するデータが広がっていく好循環が生まれる。「あらゆるものをデータ化してつなげていく好循環を生み出すには、通信とセンサの各機能の高度化や技術革新がなくてはならないものです。技術革新を進める1つの方法として、村田製作所では過去からM&Aを含めて技術獲得を進めてきました」(魚住氏)。さらに、「通信などの規格団体に参画し、早い段階から動向を察知し、研究開発にフィードバックする取り組みも進めてきた。必要な技術の獲得や蓄積に貢献している」という。
一方で、モノづくりによる価値提供も忘れてはならない。村田製作所の生産現場には多くのノウハウがあり、モノづくりのDX(デジタル変革)が進められているという。魚住氏は、小諸村田製作所の取り組みを紹介した。「現場主体のDXを推進し、自社製品の活用を進めています。さらに生産管理や設備の見える化を進めています。また、エネルギーマネジメントをはじめ省エネデータの見える化にも取り組んでいます。社会価値を経済価値に変えていく循環としてのアプローチです。そこではビッグデータを取り扱うための通信ネットワークが1つの鍵を握ります。生産現場の通信ネットワークは、有線だけでなく無線の活用が拡大します。5Gのミリ波周波数の利活用や、将来の6Gの最大限の活用を想定しています。生産現場の革新的な利便性や効率性を、省エネや地球環境に配慮した形で進めるための技術です」と説明する。
ハンドオーバーの性能が生産現場の5Gのアドバンテージ
質疑では、さらに突っ込んだ話があった。「通信とは関係なかったとしても、いま面白いと考えているデバイスはありますか」という質問に対して、魚住氏はM&Aの話題を引き合いに出して回答した。「人の五感に関わる分野で、ミライセンスという会社をM&Aしました。3D触力覚技術という面白い技術を持つ会社です。例えば、あるデバイスを触っているとき、デバイス自身は微細に振動しているだけですが、その振動を脳で錯覚することで、脳や筋肉に刺激が伝わり引っ張られているとか押されているといった感覚を五感に訴える技術です。村田製作所にこういった技術を取り込むことで、バーチャルな空間の実現ができるようになるのではないかと思います」。
また、「ワイヤレス通信では、5G以外にもWi-Fi™ありますが、Wi-Fi™ではなく5Gを使う必要性について教えてください」という質問には、「Wi-Fi™と5G大きな違いはハンドオーバーの性能だと思います。固定されたモノならばWi-Fi™でもよいでしょうが、工場の中を動くモノなどが基地局をハンドオーバーしていくときには、Wi-Fi™では遅延や切断が起こりがちです。5Gを有効に使うには、ハンドオーバーの性能をどう活用するかが1つのアドバンテージになると思います」(魚住氏)と答えた。
さらに「センサと通信のつながりでミリ波が不可欠になってくる可能性はありますか」という質問にも、「通信とセンシングが、同じ周波数帯でできるような技術開発が進んでくると思います。さまざまなセンシングデバイスと無線通信が組み合わさって、それらを活用できるようになるところから社会課題解決につながっていくのではないでしょうか」と魚住氏は答え、講演を締めくくった。
(5GMFミリ波普及推進アドホック・TeleGraphic 編集部)