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5Gでミリ波利用が拡大するための「課題」

現在、5Gのエリアは主にローバンド、ミッドバンドおよびsub6を中心に展開されています。一方で、5Gの特徴の1つでもある高い周波数帯を利用する「ミリ波」のトラヒック収容比率は極めて低いのが現実です。この記事では、ミリ波の利用状況を改善する上...

2023/12/04

Posted on 2023/12/04

現在、5Gのエリアは主にローバンド、ミッドバンドおよびsub6を中心に展開されています。一方で、5Gの特徴の1つでもある高い周波数帯を利用する「ミリ波」のトラヒック収容比率は極めて低いのが現実です。この記事では、ミリ波の利用状況を改善する上での課題として、(1)ミリ波導入エリア、(2)ミリ波対応基地局装置、(3)ミリ波対応端末、(4)ミリ波ユースケース――の4つの観点から分析しました。

ミリ波では広い帯域幅によりsub6よりも高速・大容量化が期待できる一方で、現在、5Gのエリアは主にローバンド、ミッドバンド、sub6を中心に展開されており、ミリ波のトラヒック収容比率は極めて低い。この状況を改善する上での課題として、ミリ波導入エリア、ミリ波対応基地局装置、ミリ波対応端末、ミリ波ユースケースの観点で分析し、以下に述べる。

ミリ波導入エリア

電波伝搬の自由空間損失は式1で示される。これは電波伝搬ロスは周波数が高くなるほど、周波数の増分の2乗の割合で大きくなることを意味している。

伝搬損失L=(4πd f/c)²      d:距離,f:周波数,c:光速         (式1)
自遊空間損失に加え、周波数によって異なる空気中の分子振動による吸収もあり、Fig. 3-1に示すロスが生じる。

Fig. 3-1 Atmospheric and molecular absorption

また、遮蔽によるロスも周波数が高くなるほどより急峻となり、見通し外での受信レベルの低下がより大きくなる(Fig. 3-2)。

Fig. 3-2 遮蔽ロスの測定結果例 [1]

これらの電波伝搬上の特性により、同一の実効輻射電力で比較した場合にはミリ波のセル半径はsub6より小さくなる。また、遮蔽ロスが急峻で大きいことから、できる限り見通し環境を確保できる場所にアンテナを設置する必要がある。これらは通信事業者にとってコストやアンテナ設置場所の確保上の課題であることから、現状は運用しやすいsub6から主に導入されている。ミリ波のエリア改善のためには、電波伝搬特性を踏まえた上でのアンテナ性能の改善や小型化、アンテナ設置場所の制限を緩和する新たなソリューション等が必要である。

ミリ波対応基地局装置

ミリ波は5Gで新たに移動通信向けに使われる周波数帯で、新規開発が必要であり、その普及度合いはsub6と比較して限定的で無線デバイスの規模の経済効果も現状は低い。

基地局アンテナについては、sub6に比較して小型アンテナの実現が容易であり、伝搬ロスの増加に対応するアンテナゲインの飛躍的な向上を図るために、超多素子アンテナを利用するのが主流となっている。また、装置内のロスも増大することから、ロスを最小限にするアンテナと増幅器を一体化したアナログRFICによる実装が通常使われる。このようにミリ波基地局は実装上新しい点が多く、今後の進化が期待される。例えば、基地局の増幅器の効率としてはsub6は数十%程度なのに対し、ミリ波は十数%と低い。現状は超多素子アンテナを利用する実装によりシステム全体の効率を高めており、今後はアンプ自体の効率も向上する。MIMOレイヤ数に関しては、ミリ波では装置規模の制約から2レイヤが主流となっている。また、超多素子アンテナによるビームフォーミング機能に関しても、フルデジタルによる高性能化は装置規模の観点でいまだ商用実装には至っておらず、アナログとデジタルのハイブリッド実装が主流である。これらの機能の発展は将来的な高度化の可能性として検討されている。

ミリ波対応端末

白書全体でも述べられているがミリ波のユースケースはまだ十分でなく、加えて、現在、ミリ波を利用できるエリアは十分にない。ミリ波を実装した端末は増加しつつあるが、いまだハイエンド端末に限られていることが現状である。前述のミリ波アンテナ、モジュール、ベースバンド、関連するSW等の開発等、ミリ波を導入することに伴うコスト増加は端末価格の上昇を招き、ローエンド端末への普及が困難となっている。この価格上昇分に見合うメリットを見いだせていない点、エンドユーザーが享受できてない点も現状の課題である。また、ミリ波導入で部品点数が増えることで、端末のデザインにも制約が生じる可能性がある。今後ミリ波導入のコスト、アンテナ・モジュール等の小型化、アンテナ特性の高カバレッジ化が端末への普及のカギとなる。

併せて、ミリ波では増幅器等の半導体デバイスの電力効率がマイクロ波と比べまだ低く、これが一つの主原因となり消費電力が高い。これはバッテリー消費量や発熱等にも影響し、エンドユーザーの使用感に大きな影響を及ぼす課題である。これらを解決することもミリ波端末の普及へのカギとなる。

ミリ波ユースケース

5G特有のユースケースとして動画サービスの高品質化や、遠隔監視・制御のニーズなど広がりつつある。しかし、現状のほとんどのユースケースがsub6の性能でも満足できるレベルにとどまっており、ミリ波の高速・大容量性能を必要とするレベルではないことから、ミリ波の普及につながっていない。今後、ミリ波を必要とするさらなるユースケースの高品質化や新たなユースケースの創出に向け、他業界へのミリ波の有効性の訴求と実証が必要である。

全体課題

以上、ミリ波普及の課題としてミリ波導入エリア、ミリ波対応基地局装置、ミリ波実装端末、ミリ波ユースケースに分類して述べたが、これらは独立な課題ではなく、相互に関連しており、現状はある意味負の連鎖を生じていると考えられる。例えば、ミリ波特有の高速・大容量性を生かしたユースケースが存在しないことは、ユーザ数増/ARPU増によるミリ波導入の費用対効果を見込むことができないため、通信事業者がミリ波のエリア拡大に消極的な理由の一つとなっている。ミリ波を実装した端末が限定的であるのはミリ波のエリアが限定的であることも理由である。ミリ波特有のユースケースが創出されていないのはミリ波エリアが限定的で、ミリ波実装端末が普及していないことも理由であろう。よって、ミリ波普及に向けては、上記の3つの課題をすべて解決し、正の連鎖とする必要がある。(Fig. 3-3)

Fig3-3 ミリ波普及課題の相互相関と正の連鎖

さらに上記のミリ波の状況と課題は国内だけのものではなく、世界的な課題であり、海外のほうがより深刻な状況である。ミリ波の周波数割り当ては海外でも徐々には広がっているものの、いまだ一部の国にとどまっている。ミリ波の周波数割り当てが行われた国でも、エリア展開がされていない、もしくはごく一部のエリア、ごく一部の用途にしか導入されていない。通信事業者に周波数割り当てされたものの、エリア展開されていない状況から、割り当て免許をはく奪されたケースが海外で発生した。ミリ波の普及に向けては、世界規模でのエコシステムの構築による価格低減、コスト削減、技術革新が必須であり、国内のみに注力すればよい問題ではない。今後、ミリ波の課題と解決方法を世界的に共有し、グローバルなエコシステムを構築することが国内での普及に向けても極めて重要である。

参考文献

  1. 豊竹和孝,他, “テラヘルツ帯における人体遮蔽損失,” 信学総大, B-1-5, Mar. 2022.

この記事の内容は、5GMFが2023年3月31日に公開した5GMF白書「ミリ波普及による5Gの高度化 第1.0版」を基にして、抜粋・編集しています。白書は7月3日に第2.0版にアップデートされました。全文をご覧になりたい場合は5GMFのWebサイトからダウンロードしてください

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