5Gとミリ波の国内外の現状を見る【前編】――周波数割当と商用サービス開始
5Gサービスは世界各国においてサービスが進展しています。一方で、5Gの中でも高い周波数帯を使う「ミリ波」に関しては、周波数の割当は進展していますが、利用はまだ限定的です。この記事では、5Gとミリ波の国内外の状況を2回に分けて紹介します。...
2023/12/02
Posted on 2023/12/02
5Gサービスは世界各国においてサービスが進展しています。一方で、5Gの中でも高い周波数帯を使う「ミリ波」に関しては、周波数の割当は進展していますが、利用はまだ限定的です。この記事では、5Gとミリ波の国内外の状況を2回に分けて紹介します。前編では、5Gおよびミリ波の周波数割り当て、商用化サービスの開始状況、ミリ波対応端末の状況について見ていきます。【後編】では、3GPP標準化動向と各国の動きを説明します。
5Gサービスは、大きな経済的効果をもたらす新たな社会基盤として大きな期待が寄せられ、世界各国においてサービスが進展する一方、ミリ波に関しては、周波数の割当は進展しつつも、sub6と共に利用されることで5Gのポテンシャルをフルに生かすために必要であるにも関わらず、米国を除き、各国において限定的な利用にとどまっている。
このような状況の中、日本は、米国に次いで商用化が進んでいる状況であり、今後、世界におけるイニシアティブを持つべく、政府、産業界において議論が進められている。
本章では、これらミリ波に関する国内外の状況について、その概要を紹介する。
周波数割当動向
世界各国において、5Gサービス用途として、26/28GHz帯で主に400MHzから1000MHz幅が割り当てられている。ミリ波は、2022年12月には31か国で周波数が利用可能となっており、2022年には18か国で事業者に対して周波数が割り当てられ、商用化を行っている事業者数は28(プライベートネットワーク事業者を含む)となっている(Fig. 2-1)。また、日本を含む10か国において、ミリ波が公衆網用だけでなく、プライベートネットワーク用にも割り当てられている(Fig. 2-2)。この他、各国において周波数オークションの実施が計画されているなど、ミリ波の利用が可能となる国・地域が順次増加していくことが見込まれている。
各国でミリ波の利用が進むにつれ、WTP (Willingness To Pay)やARPU (Average Revenue Per User)が向上する傾向が生じる一方で、ミリ波周波数の割当を受けた事業者のうち商用化へ進んでいるのは20%にとどまっていること、ミリ波に対応する端末のシェアが10%であること、各国のフラッグシップ端末がミリ波に対応していないことなど、ミリ波が5Gサービスの進展の中で未だ主流になれていないことが報告されている[3]。
日本では、2019年4月に5G用周波数として、sub6(3.6GHz~4.1GHz, 4.5GHz~4.6GHz)及びミリ波(27.0GHz~28.2GHz, 29.1GHz~29.5GHz)が携帯電話4事業者に対して割り当てられた。また、2019年12月にローカル5Gが、一部周波数(28.2GHz~28.3GHzの100MHz幅)で制度化され、2019年度末より免許申請の受付が開始された。2020年12月には、ローカル5G用周波数が拡張(4.6GHz~4.9GHz、28.3GHz~29.1GHz)された。
ローカル5Gに関しては、ミリ波がsub6に比較して早い時期に割り当てられたものの、当初はLTEキャリアをアンカーとするNSAでの運用が前提であったこと、そして携帯電話事業者においてもミリ波の利用が普及する前段階であったこともあり、利活用が進まなかったという側面がある。
現在、日本政府においては、4.9GHz帯 (4.9GHz~5.0GHz) / 26 GHz帯 (26.6GHz~27.0GHz) / 40 GHz帯 (39.5GHz~43.5GHz)の追加割当を行うことを念頭においた、新たな割当方式等に関する議論[4]がなされている。
Fig. 2-1 5Gミリ波周波数割当と商用化の状況(2022年11月時点) [1]
Fig. 2-2 世界のミリ波帯周波数状況(2022年12月時点) [2]
各国におけるミリ波の商用化サービス等の開始状況(概観)
●全体
ミリ波を用いた商用サービスが本格化しているのは、2022年11月時点で米国と日本に限られるなど、限定的な状況となっている。商用化の初期段階にあるのが、ドイツ、イタリア、フィンランド、スペインの欧州各国、オーストラリア、台湾、香港、シンガポールなどのアジア各国などである。
ミリ波は、その経済性などを活かして効率的にネットワークを構築することができることに加え、通信事業者が多様なサービスを提供し、売上を向上させることや、ネットワーク投資を効率的に回収することを可能とすることが期待されている[5]。
Fig. 2-3 ミリ波による経済効果の例 [5]
●国内
日本においては、2019年に4通信事業者にミリ波が割り当てられており、商用サービスが開始されている。
総務省によれば、5Gの国内人口カバー率は、2022年3月末現在で93.2%に達している[6]ものの、その多くは700MHz、1.7GHzや3.4GHz/3.5GHzといった4G用周波数からのリファーミングによる5G基地局数である。これらは、総計44,297局(人口カバー率は最大90.7%)となっており、5Gの人口カバー率の多くを占めている。一方、5G用に新たに割り当てられた周波数のうち、sub6 (3.7GHz、4.0 GHz /4.5GHz)の基地局数は総計30,531局(人口カバー率は最大31.8%)、28GHzの基地局数は総計13,218局(人口カバー率は0.0%)となっている。人口カバー率への寄与は、3.7GHz、4.0/4.5GHzにおいては0.0%~31.8%であり、ミリ波帯は各社ともに0.0%となっている。帯域別の5Gトラヒック量に関しては、sub6は62.6%となっている一方で、ミリ波は0.2%にとどまっている[7]。国内における端末販売市場において、ミリ波対応端末が5.2%程度(後述)となっている。
現在、総務省において、ミリ波等の高い周波数帯を活用した5Gビジネスの将来像や5Gビジネスを拡大していくための方策等に関する議論が行われている。
Fig. 2-4 電波の利用状況調査の結果(帯域ごとの5G基地局の整備状況) [7]
●グローバル
ミリ波対応端末は、2022年12月時点で、世界65以上のベンダーから170機種以上の多様な製品が発表・発売されている。スマートフォンの他、PC、WiFiルーターやIoT機器、通信モジュール、CPE(構内無線設備)等の多様な製品が展開されている[1]。現時点では、発売されている国や機種は一部にとどまっているものの、徐々に広がりを見せつつある。また、後述のとおり、米国では新規に出荷される端末のうち、ミリ波対応端末が57.3%を占めるなど、着実に普及しつつある。
Fig. 2-5 ミリ波対応端末の展開状況 [1]
●国内
ミリ波を実装した端末は2022年には日本国内でハイエンド機種を中心に17機種が発売されるなど着実に増加しつつある。一方で、その販売台数は2022年には170万台強、端末販売市場全体の約5.2%程度にとどまっている[1]。米国に比較して、端末販売市場におけるシェアが1/10程度となっていることは、国内で高いシェアを有する端末が、米国とは異なりミリ波に対応していないことや、ハイエンド端末が主な対応機種となっていることの影響が生じているものと思われる。今後は、高いシェアを持つ端末や、ハイエンド端末以外の幅広い価格帯の端末のミリ波への対応が課題となる。
参考文献
- クアルコムジャパン, 5GビジネスデザインWG第2回会合クアルコム資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860192.pdf - エリクソン・ジャパン, 5GビジネスデザインWG第2回会合エリクソン資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860162.pdf - GSMA, 5G mmWave Circa 2023- State of the Market and Look back at our Accomplishments (MWC2023 GSMA資料).
- 総務省, 「5Gビジネスデザインワーキンググループ」運営方針.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000857639.pdf - Bell Labs Consulting, The business of 5G mmWave.
- 総務省, 5Gの整備状況(令和3年度末)の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000561.html - 総務省, 5Gビジネスデザインワーキンググループ(第3回)配布資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860636.pdf
この記事の内容は、5GMFが2023年3月31日に公開した5GMF白書「ミリ波普及による5Gの高度化 第1.0版」を基にして、抜粋・編集しています。白書は7月3日に第2.0版にアップデートされました。全文をご覧になりたい場合は5GMFのWebサイトからダウンロードしてください