5Gとミリ波の国内外の現状を見る【後編】――標準化動向と各国の動き
5Gサービスは世界各国においてサービスが進展しています。一方で、5Gの中でも高い周波数帯を使う「ミリ波」に関しては、周波数の割当は進展していますが、利用はまだ限定的です。この記事では、5Gとミリ波の国内外の状況を2回に分けて紹介します。...
2023/12/03
Posted on 2023/12/03
5Gサービスは世界各国においてサービスが進展しています。一方で、5Gの中でも高い周波数帯を使う「ミリ波」に関しては、周波数の割当は進展していますが、利用はまだ限定的です。この記事では、5Gとミリ波の国内外の状況を2回に分けて紹介します。【前編】では、5Gおよびミリ波の周波数割り当て、商用化サービスの開始状況、ミリ波対応端末の状況について見てきました。今回の後編では、3GPP標準化動向と各国の動きを説明します。
3GPP標準化の動向
GPPではRel-15以降FR2帯域(24250 MHz – 52600 MHz)として、バンドn257, n258, n259, n260, n261, n262が標準化されてきた。Rel-17においてFR2-2帯域(52600 MHz – 71000 MHz)まで拡張されバンドn263も標準化された。
NR バンド | 周波数 | デュプレックス | 主要地域 |
n257 | 26500 MHz – 29500 MHz | TDD | 日本、韓国 |
n258 | 24250 MHz – 27500 MHz | TDD | 欧州、インド、豪州等 |
n259 | 39500 MHz – 43500 MHz | TDD | |
n260 | 37000 MHz – 40000 MHz | TDD | 米国 |
n261 | 27500 MHz – 28350 MHz | TDD | 米国 |
n262 | 47200 MHz – 48200 MHz | TDD | 米国 |
n263 | 57000 MHz – 71000 MHz | TDD |
また、ミリ波向けのアプリケーションとして、スマートフォンのような携帯端末以外にも、これまでにFWA型、車載型、高速鉄道向け端末の仕様が標準化されている。キャリアアグリゲーションによる最大連続帯域幅の拡大(1.2GHzから2.4GHzへ)やミリ波バンド間のキャリアアグリゲーションの仕様追加もRel-17までに行われており、4章で紹介するmassive-MIMOのさらなる高度化・機能拡張等、ミリ波通信の性能向上のために3GPP標準の改訂が継続して行われている。
日本以外の各国の動向
●米国
米国では、AT&T、T-Mobile、Verizon等の各事業者へ周波数がライセンスされており、FWAでの利用や都市部や高トラフィックエリアでのホットスポット利用が進展している。
また、ライセンスに際しては、ライセンスを保持するエリアにおいて少なくとも40%の人口カバー率を達成することなどが求められている[1]。
これに対し、Verizonでは全米1500都市以上で、4万局以上のミリ波基地局を、スタジアムや駅などの拠点や、都市部に集中的に設置するなど、積極的な利用が進んでいる。また2025年までに5000万家屋へFWAサービス(ミリ波及びCバンド)を提供することを目指している[1]。
対応端末については、Table. 2-2が示すように、順調に普及が進んでいる。これは、米国で高いシェアを有する端末が2020年以降、一部機種でミリ波に対応していることが要因の一つと考えられる。
年 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 |
---|---|---|---|---|
ミリ波対応端末のシェア | 0.3% | 4.3% | 43.1% | 57.3% |
インフラの充実と、対応端末の普及にあわせ、スタジアム、駅などの交通ハブ、屋内ショッピングモール、屋外の人が多く集まる場所などにおいて、ミリ波の利用が進展することにともない、放送の中継やスポーツ観戦時などにおける新たなユースケースが生じてきている。アメリカンフットボール、F1、アイスホッケーなどの大規模なスポーツイベントにおけるミリ波を用いた多様な観戦方法も浸透し始めており、好評を博していることが報告されている[3]。このように、ミリ波が積極的に使われている先進的なネットワークを用いたB2B2Cのビジネスが徐々に広がりつつある。[3]
●欧州
Deutsche Telekom(独)、Elisa(フィンランド)、FastWeb(伊)及びTIM(伊)が商用化の初期段階にある。FWA、スマートフォン、産業向け用途が中心となっている。また、複数のモデルシティを構築するプロジェクトが検討・進行中である[1]。
英国では、26GHz(24.25GHz-27.5GHz)及び40GHz(40.5GHz-43.5GHz)のミリ波を5Gなどのモバイル技術に割当てることとし、オークション(2024年第2四半期)の設計やローカルライセンスの付与条件等について、2023年3月にパブコメを開始した。周波数割当に際しては、ミリ波の展開が最も多いと予想される主要な町や都市(高密度エリア)で、共有アクセスライセンスフレームワーク(Shared Access licensing framework)を用いて、先着順でローカルライセンスを付与し、市/町全体での割当をオークションで行うこととしている。また、低密度エリアでは、展開がまばらになることが予想されることから、共有アクセスライセンスフレームワークを使用して、ミリ波のローカルライセンスを先着順で付与する[8]。
フランスでは、2023年、政府はFrance 2030政策の一環として、新たな提案募集(2025年までに7500億ユーロ以上の規模の投資を想定)を開始し、支援を行う計画としている[1]。
- 5G の発展と 6G および次世代のネットワークの開発を促進するためのR&D
- 高レベルのセキュリティと信頼性を保証する通信ネットワーク向けソリューションの開発
- 通信ネットワークの環境負荷の改善
またフランスでは他にも、European 5G-TOURS research projectの一環として、26GHz帯を用いたRennes大学病院におけるヘルスケア分野における取組などが進んでいる[1]。
スペインでは、2023年2月末にバルセロナで開催されたMWCの会場では、Telefonica社の初のミリ波商用局(Ericson社製)が設置され、訪問者やミリ波関連展示で活用された。Qualcomm社のブースでは、ミリ波対応端末の展示やスピードテストのデモが行われた。このデモでは、通信環境により結果が大きく左右されるものではあるが、PC等の遮へい物があった場合においても、速度等が大きく低下することがないことなどが示された。
MWC 2023 会場内のミリ波基地局 | 通常の状態 (下り約3.0Gbps) | PCで遮蔽した状態 (下り約3.0Gbps) |
●中国
中国では、sub6を用いた5GのNW展開が急速に進み、2022年12月には231.2万局が構築されている。その一方で、ミリ波の通信事業者向けライセンスは、2023年2月時点で付与されていない。プライベートネットワーク向けライセンスとしては、2022年10月には、国内初の商用ライセンス(5925MHz-6125MHz、24.75GHz-25.15 GHzの周波数)がCOMAC(中国の航空機製造メーカ)へ付与された[9]。
ミリ波は、5Gサービスのカバレッジを補い、ネットワークの容量を増加させるものとして期待が寄せられ、これまでに研究開発や試験などの取組が進められてきた。
2019年には主要技術の試験による仕様の統一化を図り、2020年には設備試験による試験環境やパフォーマンス試験システムを完成させ、2021年にはSAサービスの試験、2022年にはミリ波の試験を行うなど、着実に取組を進めている[10]。
●韓国
韓国では、Korea Telecom、SK Telecom、LG Uplusへ2018年6月、周波数オークションの結果、28GHz帯で各社へ800MHzの周波数が割り当てられた。3年以内に15,000局の基地局設置の義務が課されていた。
政府からは、28Ghz帯への投資が継続的に奨励されていたものの、各事業者は3.5GHzへの投資を優先した結果、当初の周波数割当期限である2023年11月を待たずに、LG U+とKTは2022年11月[12]、SKTは2023年5月[13]、割当停止の措置が取られた。ただし、現在使用中の地下鉄サービスについては、当初の割当期限まで使用可能とされている[11]。
2023年1月31日、韓国政府より、市場参入の敷居の低下、初期ネットワーク構築支援、サービス運営支援などからなる新規事業者参入支援法案が示された。2023年第2四半期には周波数割当の公告、第4四半期には新規事業者の選定が行われる見通しとなっている[11]。
その一方で、政府NWを5Gで構築することや、3億ドルのGiga-Korea高速プロジェクトによる高速ネットワークの開発支援が行われている[1]。
●インド
インドでは2022年7月に周波数オークションが行われ、RJIO に1GHz幅(SA)がインド全域で、Airtelに800MHz幅(NSA)がインド全域で、BSNLへ400MHz幅(SA/NSA(TBD))がインド全域で、Vodafoneへ200-800MHz幅(NSA)が主要マーケットで、Adani Data Network(5Gプライベートネットワーク事業者)へ400 MHzが運用を行っている主要マーケケットでn258のミリ波が割り当てられた。
今後、2023年前半にはフィールドデモによりFWAやモビリティのユースケースのフィールド実証などを行い、1年以内での商用サービスの開始、以後3年、5年時点でのカバレッジに関する展開義務が政府より課されている[1]
●オーストラリア
オーストラリア通信メディア局 (ACMA) の26 GHz 帯域のオークションで、5 社が周波数を獲得した。Telstra Corporation Limited はほとんどの地域で1GHz幅を、Optus Mobile Pty Ltd はほとんどの地域で 800 MHz幅を、Mobile JV Pty Limited (Vodafone Hutchison Australia と TPG Telecom の JV)は、ほとんどの地域で 600 MHzを、Dense Air Australia Pty Ltd (5G テストベッドの中立ホスト事業者)は、限定的なエリアで200MHzを、Pentanet Limited (パース市のローカル ISP) は2地域で400 MHzをそれぞれ落札した。
オークションで落札されたライセンスは、今年後半に発効し、2036 年までの 15 年間の有効期間となる[1]。
オーストラリアでは、2860万ドルの5G Innovation Initiativeプログラムにより、ユースケース開発や5Gにより生み出される価値のデモンストレーション等に資金が提供されている[1]。
●東南アジア
東南アジアでは、2020年にはSingtel(シンガポール)、CHT 及び APT (台湾。APTはミリ波プライベートNW事業者)、21年にはTRUE 及び AIS(タイ)、CMHK及びHKT(香港)、Viettel(ベトナム)といった、5か国・地域の8事業者がミリ波事業を開始している。
また、これら8事業者を含め、5か国・地域の16事業者がミリ波の周波数を獲得している。
シンガポールでは、2,250万ドルの5Gの新たなソリューションを開発するためのグラントプログラムや、5,000万ドルの最先端の通信技術等の開発支援が行われている。
台湾では、Advanced Semiconductor Engineering (ASE)社により、5GmmWave NR-DC SAによるスマートファクトリー事業を立ち上げる計画などがもたれている[1]。
参考文献
- クアルコムジャパン, 5GビジネスデザインWG第2回会合クアルコム資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860192.pdf - エリクソン・ジャパン, 5GビジネスデザインWG第2回会合エリクソン資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860162.pdf - GSMA, 5G mmWave Circa 2023- State of the Market and Look back at our Accomplishments (MWC2023 GSMA資料).
- 総務省, 「5Gビジネスデザインワーキンググループ」運営方針.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000857639.pdf - Bell Labs Consulting, The business of 5G mmWave.
- 総務省, 5Gの整備状況(令和3年度末)の公表
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000561.html - 総務省, 5Gビジネスデザインワーキンググループ(第3回)配布資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860636.pdf - Ofcom, Enabling mmWave spectrum for new uses.
- European 5G Observatory, “The Ministry of Industry and Information Technology (MIIT) has granted the license to a domestic aero plane manufacturer.
https://5gobservatory.eu/china-grants-first-5g-private-network-licence/ - 中国信通院(CAICT), Setting Sail on a New Journey with 5G Commercialization(MWC2023CAICT資料).
- サムスンネットワークス, 5GビジネスデザインWG第2回会合サムスン資料.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000860119.pdf - 韓国科学情報通信省(MSIT).
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?bbsSeqNo=94&nttSeqNo=3182564 - 韓国科学情報通信省(MSIT).
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?bbsSeqNo=94&nttSeqNo=3183048
この記事の内容は、5GMFが2023年3月31日に公開した5GMF白書「ミリ波普及による5Gの高度化 第1.0版」を基にして、抜粋・編集しています。白書は7月3日に第2.0版にアップデートされました。全文をご覧になりたい場合は5GMFのWebサイトからダウンロードしてください