ミリ波の無線通信がなぜ必要なのか

社会発展と将来の持続可能な社会を築く上で通信の役割は今後、さらに重要度が高まるでしょう。そこでは、高速大容量・低遅延の特徴を持つミリ波の活用が極めて重要になると考えられます。この記事では、これまでよりも高い周波数帯を利用するミリ波の必要性に...

2023/12/01

Posted on 2023/12/01

社会発展と将来の持続可能な社会を築く上で通信の役割は今後、さらに重要度が高まるでしょう。そこでは、高速大容量・低遅延の特徴を持つミリ波の活用が極めて重要になると考えられます。この記事では、これまでよりも高い周波数帯を利用するミリ波の必要性について考察します。(1)将来のトラヒック増加に対する周波数リソース確保、(2)将来の高速大容量・低遅延サービスへの対応、(3)経済性、エネルギー効率、(4)新たなユースケース開拓、(5)将来の追加周波数割り当てへの足掛かり――の5つの観点から、ミリ波の必要性を説明します。

現在までに、1Gから5Gまでの移動通信の発展が社会の発展に重要な役割を果たしてきたことは疑いの余地もない。将来の持続可能な社会を築く上でも通信の役割はより一層重要になると考えられる。これに対応するためには、高速大容量・低遅延の特徴を持つミリ波の活用が極めて重要である。さらに2030年代の6Gに向けては、ミリ波のソリューションは検討のベースとなり、サブテラヘルツ帯活用の検討に向けた前提条件となると考えられる。以下でミリ波の必要性を複数の観点で詳細に述べる。

将来のトラヒック増加に対する周波数リソース確保

過去数十年にわたり、マルチメディアサービスやスマートフォンの普及に伴い、移動通信トラヒックは継続的に増加している。さらに4Gの導入とともに、人の通信だけでなくIoT(Internet of Things)の普及に伴うモノの通信需要も増加している。また様々な業界において、5Gを活用した有線の無線化ニーズ、およびDXの進展に伴う通信による業務の効率化のニーズが高まっている。これらを背景に移動通信トラヒックは継続的に増加しており、Fig. 1-1の通り、過去一年では1.2倍、過去3年では1.8倍のトラヒック増加となっている。これらの傾向は今後も続くと考えられ、さらに新たな移動通信のニーズが今後生まれる可能性もあり、移動通信トラヒックのさらなる増加も想定される。

Fig. 1-1 移動通信トラヒックの推移[1]

これらの要因によるトラヒック増加に対し、現在のsub6を主とした5G展開による容量増大や、移動通信システムの技術的な高度化による通信容量の拡大も期待されるところであるが、これらだけで将来のトラヒック増加に対応することは困難であると考えられる。GSMAのレポート[2]によるとFig. 1-2に示す通り、2030年までにeMBB、FWA、enterprise networksの3種のユースケースでそれぞれ4.5GHz、350MHz、150MHz、合計5GHzのミリ波周波数リソースが必要と報告されている。これらの理由により、ミリ波の周波数リソースの活用が必須である。

Fig. 1-2 2030年までのミリ波周波数需要予測[2]

将来の高速大容量・低遅延サービスへの対応

5Gの高速大容量性、低遅延の特徴を生かした多くのサービスやアプリケーションが開発され、また今後の発展も期待されている。エンタープライズ向けでは遠隔監視・遠隔操作や、映像のAI処理によるセキュリティ、見守り、故障・障害の予知等のニーズが多く、より高度なサービスが開発されるであろう。これらに対応するために、今後4Kさらには8K映像品質が必要とされ、それを伝送できる通信基盤が必要になると考えられる。

コンシューマーおよびエンタープライズ向けの双方で、XRデバイスを活用したサービスやアプリケーションが既に多く提供されているが、今後XRデバイスの軽量化、映像表現の高精細化、高機能化とともに5G通信機能搭載により、さらに新たな魅力的なサービスやアプリケーションが創出されると考えられる。

ロボティクスについては、工場などでの特殊用途だけでなく、人々が暮らす環境でのロボット導入も今後加速的に普及すると考えられ、ロボットによる監視、見守り、介護などのサービスが普及するであろう。

これらは一例であり、将来的にはデバイスの発展とともに様々な先進的なサービスやアプリケーションが開発されると考えられる。これに伴い、通信の高速大容量性や低遅延性のニーズが高まると考えられる。逆に高速大容量、低遅延なサービスが適材適所に提供されることで、これら先進的なサービス・アプリケーションの開発と普及が促進されると考えられる。

経済性、エネルギー効率

通信トラフィックの急激な増大が見込まれている中、スタジアム、屋内ショッピングモール、鉄道駅、屋外の人の密度が高い場所など特定の場所・エリアにおいては、集中的なトラフィックが発生することが想定される。調査[3]ではFig. 1-3に示す通り、ある特定の場所では2021年から2026年にかけてトラフィックが+116%になる事例が示されている。これに対し、ミリ波のデータ通信量あたりの実装コストが年々低下するなか、2026年にはミリ波の実装コストはミッドバンドに対して75%低下し、また、ホットゾーンあたりのスモールセルの必要数は2025年にはミッドバンドに対して74%低下することに加え、電力消費量を70%程度低減させる効果が見込まれている。戦略的な場所へミリ波基地局を設置することで、高い経済効率性で、増大するトラフィックへ対応することができることから、通信事業者の5G通信網のTCO(Total Cost of Ownership)を低減させることが期待されている。

Fig. 1-3 ミリ波の実装コストと電力消費見込みの調査結果[3]

新たなユースケース開拓

ミリ波の特徴である直進性の高さと広帯域性、そしてビームフォーミングによる運用は、新たなユースケースを開拓する可能性を秘めている。例えば、5G基地局または5G移動局において測位用の参照信号を送受信しその伝搬遅延差や到来角などに基づいて移動局の位置を測位するポジショニング[4-7]では、ミリ波を用いることでセンチメートルレベルの測位精度を達成できることが報告されている[8]。今後さらに、反射された電波を測定することで5G移動局に限らない任意の物体の位置や形状・状態を推測するセンシング機能や、5Gデータ通信とセンシングを融合するJoint Communication & Sensing[9]の標準化も想定される。Joint Communication & Sensingでは、例えば5Gネットワークによる交通トラフィックのモニタリング[10]など、これまでにない新たなサービスの創出が期待されるところである。

将来の追加周波数割り当てへの足掛かり

前述の通り、様々な理由でミリ波の活用が期待されるが、それぞれの理由は短期的なものではなく継続的である。よって、現在割り当てられている28GHz帯を含む周波数だけで将来にわたり十分ということはなく、2020年代中においても追加の周波数リソースの割り当てと活用が必要となると考えられる。今後のさらなる高速大容量、低遅延性の期待を考慮すると、ある程度広い帯域幅を有する周波数リソースが必要であり、準ミリ波以上の追加周波数帯の活用が期待される。これらの追加周波数をタイムリーに活用し、今後の社会発展を推進するためには、現段階から28GHz帯をしっかりと活用できるソリューション開発と運用スキルが必須である。

2030年代の6Gに関する検討が既に精力的に進められている[11-13]が、5Gの10~100倍に及ぶ超高速大容量、超低遅延が要求され、周波数は数百GHzにおよぶサブテラヘルツまで検討されている。ただ、サブテラヘルツの利用を検討するには、ミリ波の活用は大前提であり、逆にミリ波を5Gでしっかりと活用できる技術とスキルを現段階で実用化しない限り、6Gに向けたサブテラヘルツの検討は無意味なものとなる。逆に、ミリ波のソリューションを現段階でしっかりと確立し運用することで、サブテラ波のソリューションを効率的に開発することが可能である。

以上の通り、持続的な社会発展のため、2020年代における5G周波数の追加割り当てと活用や、6Gに向けたサブテラヘルツの検討が重要であり、現状割り当てられている28GHzの普及は重要な足掛かりであり前提条件である。そのためのソリューション開発、ユースケース開発や運用スキルの確立が急務である。

参考文献

  1. 総務省 情報通信情報通信統計データベース
    https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/data/gt010602.pdf
  2. GSMA Vision 2030: mmWave Spectrum Needs, Full Report
    https://www.gsma.com/spectrum/wp-content/uploads/2022/06/5G-mmWave-Spectrum.pdf
  3. Bell Labs Consulting, The business of 5G mmWave, 2022.
  4. 3GPP TR 38.855, v16.0.0, Study on NR positioning support
  5. 3GPP RP-190752, New WID: NR Positioning Support, Ericsson
  6. 3GPP TR 38.857, v17.0.0, Study on NR positioning enhancements
  7. 3GPP RP-210903, Revised WID on NR Positioning Enhancements, Intel Corporation, CATT
  8. ‘Experimental Investigation of 5G Positioning Performance Using a mmWave Measurement Setup,’ 2021 International Conference on Indoor Positioning and Indoor Navigation (IPIN), George Yammine, et. al.
  9. ‘Multibeam Design for Joint Communication and Sensing in 5G New Radio Networks,’ 2020 IEEE International Conference on Communications (ICC), Carlos Baquero Barneto, et. al.
  10. https://www.ericsson.com/en/blog/2021/10/joint-sensing-and-communication-6g
  11. 総務省, Beyond 5G 推進戦略-6Gへのロードマップ-.
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000696613.pdf
  12. 総務省, “Beyond 5G推進戦略(概要), 2020年6月.
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000702111.pdf
  13. Beyond 5G推進コンソーシアム白書
    https://b5g.jp/output/

この記事の内容は、5GMFが2023年3月31日に公開した5GMF白書「ミリ波普及による5Gの高度化 第1.0版」を基にして、抜粋・編集しています。白書は7月3日に第2.0版にアップデートされました。全文をご覧になりたい場合は5GMFのWebサイトからダウンロードしてください

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